COLLABORATION

 
 
 
 

建築雑誌NewHOUSEの巻頭歳時記ページ、連載COLLABORATIONを担当。
素材と花をテーマに展開。2001年~2002年

COLLABORATION 素と花 #1
「炉」と「実」       

 
ヒマラヤの奥地クンジェラブ峠にそびえる氷の峰ムスターグ・アタが、青く輝く。
草木の実がはじけ、野が荒涼たる裸の姿をさらすとき、
僧侶ババ・ハリギリは庵に炉を切る。
自然の施しに仕える僧侶らに囲まれた焔には、炭と赤い実が静かに揺らめく。
居にいだかれ、民への恵みが温かみを放つ。
 
スタイリング・文/宮崎 秀人 

 
 
 

COLLABORATION 素と花 #2
「氷」と「白妙」
 
白妙菊の葉があたかも雪の結晶と化し、澄み切った緊張感があたりを包む。
氷がカシカシと時の流れを刻む。
「しろがねの衾の岡辺 日に溶けて淡雪流る」
 藤村の詩の一節が、心をよぎる。
 春の訪れを待つ小さな命は、土の香りを密かに感じながら、花咲く瞬間を夢見る。
 
スタイリング・文/宮崎 秀人


 
COLLABORATION 素と花 #3
「籠」と「椿」
 
 
「一枝開」いっしかい、茶の湯では緩 ゆるみを警いましめるという。
 冬の寒さの厳粛をはらんで花開く椿。
 自ら何の奢おごりを持たぬ竹篭が雪をうけて、
力強く膨らんだ白い莟つぼみ温かく迎える。
 
スタイリング・文/宮崎 秀人


 

COLLABORATION 素と花 #4
「陶」と「桜」
Sakura s’épanouit  avec  Céramique
 
 
花吹雪の中 西日を浴びた旧舎は佇む。
微塵みじんが積もるガラス窓に球児たちの掛け声が届く。
汗と土の臭いが軋きしむ回廊に漂う.....
食堂の卓には雑然と重ねられた陶に
花びらが舞いおちる。
陶は、人と共に生き
桜は、陽炎かげろうと流れゆく。
 
スタイリング・文/宮崎 秀人

 

COLLABORATION 素と花 #5

「錫」と「苔」
KOKE MEETS PEWTER
 
コロニアルとハイテク狭間、アジアの地。
錫の土産を売る白髪の老婆が店の片隅で空を見上げた。
何千羽かと見まごうばかりの黒き鳥が、羽衣の空を舞う如くたなびく。
老婆は手をあわせ、万物の命の尊さを見つめていた。
爪には錫を磨いた垢が刻み込まれ、痩せた骨は老いた皮膚をまとう。
白い瞳の奥には、黄泉よみ恐れすらない。
破れた靴のきわを、汚水が奔はしり、
朽ち果てた漆喰しっくいに苔は生す。

 
 
 
 
 
 
 

COLLABORATION 素と花 ♯6
「箔」と「百合」
Lily framed in Leaf Silver
 
病床の祖母は、その生い立ちを初めて口にした。
「夏は裏の竹林たけばやしに百合が咲き乱れ、あの香りと汗ばんだ肌がなつかしいよ」
祖母の旧姓を頼りに、訪ね歩くうちに古寺に辿りつく。
本堂の侘びた箔の襖が燻銀 いぶしぎんを放つ。
何処いずこから竹の葉の音。
瞬、噎 とき  むせ返るほどの百合の香りが涙を誘う。
 
構成・美術・文/宮崎 秀人
 

 
 
 
 

COLLABORATION 素と花 ♯7

「竹」と「鉄線」
CLEMATIS BLOOMS IN BAMBOO
 
 
滔々とうとうと流れる河、暗転の空、夜露に濡れた大地。
対岸からは、怒濤どとうの叫びが打ち寄せる。
カルカッタで見た一瞬の静寂、ボタニカルガーデン。
 
裸足の少年は、月光のあたるバンブーの群れから現れ、私を闇夜に誘う。
振り返ると水面は遠く、甘美な香りがあたりを漂う。
カオスの闇には、クレマチスの花が咲き乱れる。
 
構成・美術・文/宮崎 秀人

 
 
 

COLLABORATION 素と花 ♯8

「布」と「甘蔗」
Cloth and Sugar cane
 
 
引き潮の描く波紋が遠々えんえんと続く夕暮れどきの浜辺。
けだるい空気の中、頼りない砂地に甘蔗かんしょの柱を立て始める。
いつしか人々が集まり、コーラ売りの少年たちは、柱に布を結びつける。
布はたなびき、水面に映り込む。
魂の所在に、人はしばし佇む。
 
構成・美術・文/宮崎 秀人

 

 
 
 

 

COLLABORATION 素と花 ♯9

「糸」と「菊」
Chrysanthemam in Spun-yarn Nest
 
 
遠い記憶のなかでの遊園地。
菊の頃に立ち並ぶ人形たちが頭をよぎる。
古びた縁側の隙間から蜘蛛の糸が揺れていた。
初秋の西日が軒下に届く。
雀の紡いだ巣の中、アルミ線が光を放つ。
静かに閉園を迎えた遊園地。
重陽ちょうようの幼き感傷。
 
※重陽:五節句の一つ、陰暦九月九日、菊花の宴が催された。菊の節句。
 
構成・美術・文/宮崎 秀人
 

 
  
 
 

COLLABORATION 素と花 ♯10
「粉」と「薔薇」
Roses strewn on Powder
 
アースクエイクは祭典の夜に訪れた。
壊れかけたカスバのホテルに港から汽笛とサイレンが鳴り響く。
夜半の空港に向かう道に、男たちの群が青い街灯に浮かびあがる。
空港の待合いは、入り乱れた人種が横たわる。
赤い薔薇を持つ女は、何かに脅えていた。
機内に荷物の積み込みが始まる頃、女は消えた。
そこに、赤い薔薇と紫にけむる幻想を置き去りにして・・・
刻々と広がるサハラの大地は、砂上の楼閣ろうかんを飲み込んでゆく。
※カスバ:アルジェリアの町
 

 
 

COLLABORATION 素と花 ♯11
「写」と「茸」
Mushroom on the plate
 
 
朝靄あさもやのかかる樹海に足を踏み入れた。
立ち枯れた山毛欅ぶ なからクレオソートの香りが鼻を刺す。
音なき音を求め、進むことを恐れずに・・・
彼方に広がる白い苔に吸い寄せられ過去は消えてゆく。
時すでに夕刻をさす頃、目に映る庵は幻覚ではなかった。
日は沈み、庵の中は新たな魂が脈を打つ。
窓の外には、白い茸たけが月光に映し出された。
尊き生命の健気さは気高さまでも解き放つ。
 
構成・美術・文/宮崎秀人
 

 
 

COLLABORATION  素と花 #12 
「光」と「晒葉」
Gleamed Lights and Bleached Leaves
 
木枯らしの舞う中、土まみれのジャージのまま、グランド脇の老人ホームに向かう。
門扉を潜り、黒ずんだ竹箒たけぼうきを手にした時、癒される自分を見つけた。
星が輝く頃、 日めくりの業ぎょうが 心の糧かてと、私の歳時記さいじきに刻まれた。
身支度を整え、弥撤みさに連なる。
厳粛な光に包まれ、聖書の教えは心にひびく。
明日咲く花と、永久とわの光を求めて。
 
構成・美術・文/宮崎秀人
 
 
 

 

COLLABORATION 素と花 ♯13
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯15
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯16
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯17
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯18
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯19
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯20
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯21
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯22
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯23
 
 


COLLABORATION 素と花 ♯24
「人」と「花」
Nature Beauty Peace
 
平和を祈り、我が道を行く。
時に、空虚感に苛まれ挫折もある。
されど生きる力のあるかぎり、歩き続けなくてはならない。
私には役割があるからだ。
 
構成・美術・写真・文/宮崎秀人